生きていけない現実が目の前に 「食べるだけ」の年金生活
毎日新聞は、9月25日、次のように報じた。
中川滋子さん
女性が働けない、女性を働かせない社会が長く続き、今も続く日本。現役時代に低賃金で、あるいは働けなかった女性の高齢者がいま、低年金に苦しんでいます。
奮闘する全日本年金者組合女性部長の中川滋子さんに聞きました。
◇ ◇ ◇
「中川さんはいいわよね」
――年金問題は大きな社会問題ですが、女性の問題とは思われていません。
◆私は元教職員で組合活動もしていました。以前は女性の年金問題があるとは思っていなかったのです。
ところが、自分が年金をもらうようになると、周囲の女性から「中川さんはいいわよね。元先生だから年金が高くて」と言われます。
返す言葉がありませんでした。ではいくらもらっているのか、とは聞けません。相手も言いたくないのです。
調べてみると、女性の年金の平均額が男性に比べて低いことははっきりしています。社会の問題にするにはどうしたらいいかを考えてきました。
集めるのに苦労した声
◆今年2月に「女性の低年金実態告発集」という冊子を出しました。
集まりは良くはありませんでした。みな自分のみじめな生活のことを言いたくないのです。約1年間かけて175の声を集めました。
東京の74歳の女性は「夫婦で12万円余で、介護保険料、国民健康保険料、医療費、デイサービスなどをひくと9万円余しか残らない。もし、どちらか1人が倒れれば、もう生きていけない現実が目の前にある。精神的に落ち込む」と書いています。
映画に行く、お芝居に行くのはとても無理。旅行などとんでもない。新しい服もありえない。本当に食べるだけ。夏場のクーラーの電気代、冬場の灯油代がきつい。だからクーラーを入れる時間を決めている人がいます。
それでも健康なうちはなんとかなっても病気になると医療費がどっとかかってくる。そして働けるうちはいつまでも働くのです。高齢者で働く人が増えているのはそういうことなのです。
――なぜ女性の問題として捉えられてこなかったのでしょうか。
国民年金、40年収めて6万5千円近く。月、1万5千円、2万円の人も。
◆男性は女性ほどは年金額が低くないから、女性の低年金は課題だと思われていなかったのです。
私自身、女性の低年金者の声がこれまで届いていなかったと実感しました。
告発集よりひどい状況があるのです。月6万円をもらっている人の声がありますが、国民年金でいえば40年間フルに納めてもらえる満額(約6万5000円)に近い額です。
しかし女性は仕事の中断が多いことなどから、国民年金を満額もらえない人が多いのです。月1万5000円や2万円という人も少なくないのです。
なぜ、女性の年金が低いかといえば、女性の賃金が低いからです。
2人ならばなんとか、生活できますが、1人になるとたちまち生活が困難になります。女性の方が長く生きるので1人になりやすく、低年金の影響は女性の方が大きいのです。
人として生きる権利の問題
――女性であるがゆえに、ということですね。
◆女性の人生は遊んでいたわけではありません。生まれた時から「男だったらよかったのに」と言われ、「女は大学に行かなくていい」と言われ、会社に勤めても結婚すれば退職が当たり前で、家事労働を一手に引き受けてきました。
だから低年金になるのです。人生の終盤までジェンダーギャップに苦しめられているのです。
ある女性が「自分は夫の扶養で生きてきた。最後は自分のおカネで過ごしたい、これが夢です」と言っていました。
年金の問題が女性の家庭での立場も悪くしています。わがままも言えないし、ぜいたくもできないし、夫が電気をつけすぎだと言えば電気を消してまわるのです。
そういう女性が今も、これからもいるとすれば、それは年金で食べられる、食べられない、と言う前に、人が人として生きる権利の問題です。
首相官邸前で年金制度改革を求めて思いを語る女性=東京都千代田区で2019年6月26日、竹内紀臣撮影
――過去の問題でもありません。
◆いわゆる就職氷河期世代をはじめ、今の若い人たちは非正規が多いのです。賃金も上がっていません。働く女性の割合は増えましたが、賃金は低いままです。低年金の女性はこれからも増えるということです。
――どうすればいいのでしょう。
◆最低保障年金が必要です。年金者組合では無年金の人も含めてすべての人に8万円を保障する目標を掲げています。
けれども8万円では足りません。実際には13万円程度は必要です。夫婦2人なら計16万円でなんとか生活できるでしょう。しかし、1人になった時には13万円ぐらいは必要です。
簡単に解決する問題ではありません。なんとか光が見えるようにしなければと思っています。