ほさか栄次のブログ

ほさか栄次のブログです。

2024焦点・論点 食料自給率向上 どうすれば  鈴木宣弘 東京大学特任教授に聞く

 

赤旗は、以下のように報じた。

 

中小農家切り捨ての基本法改定 根本転換で国内農業支える道へ

 今後の日本の農業のあり方と国民の食料確保にかかわる「食料・農業・農村基本法改定案」について参議院で審議されています。農業を守り、食料自給率を向上させるにはどうしたらよいのか、東京大学特任教授・鈴木宣弘さんに聞いた。

🔶―農業の現状をどう見ているか?

 農業従事者の平均年齢は68・7歳(2022年、農林水産省調査)で、これはあと10年以内に多くの農村が崩壊しかねない現状を物語っている。

 農業生産の「担い手」となる農家への土地の集約を農水省は進めてきたが、土地の集約はもう限界にきていたり、「担い手」本人も高齢化していたりして、次の担い手がいない状況にある。そこへ円安による資材高で赤字拡大が襲って、農村コミュニティーが維持できない瀬戸際にきている。

 食料自給率は38%と言われるが、肥料はほぼ全量を輸入していることを考慮し、種子法廃止や種苗法改定によって野菜だけでなくコメや大豆などの種の自給率も10%に低下すると仮定すれば、実質自給率は9・2%に低下すると試算できる。

🔶 参院食料・農業・農村基本法改定案が審議されているが…。

 一番の問題は、こうした農業・農村の疲弊を食い止めようとの立場に立っていないこと。一部の企業が生き残れば、他の農家や農村はつぶれてもいいという前提で考えている。

 政策として出てくるのは一部の作物の輸出増大や海外農業生産への投資、スマート農業の育成・普及、農業への企業進出など。これでは一部企業がもうけるばかりで、農家の収入には結びつかない。

 たとえばオーストラリアでは1区画100ヘクタール(100万平方メートル)の田んぼなどがあるが、日本国内では、北海道でも1区画6ヘクタール(6万平方メートル)が限度。日本の地形を考えれば、多様な農業形態を支えることが理にかなっている。

 世界でも日本でも、主流は家族農業。半農半X(別の仕事をしながら農業をする)や定年帰農なども含めた中小農家が多数いることで、あぜ道の草刈りや水路の管理もできる。たとえ企業だけが残ったとしても、周辺のコミュニティーが崩壊すれば、やがて企業も存続不可能になる。

🔶―農業基本法の問題として食料自給率向上をいくつかの目標の一つに格下げしている。

 食料自給率軽視の姿勢も、金を出せば海外から安い食料を買えると思っているから出てくる。しかし、異常気象の通常化や紛争の頻発などで、金を出せば食料を買える時代ではなくなっている。中国は、有事に備えて14億人が1年半食べられるだけの穀物を備蓄する計画を立てている。

 平時から国内の農業生産を支えて国民の命を守ることこそ必要なのに、いざというときには有事立法(食料供給困難事態対策法案)で対応するという。普段は何もせずに、窮地のときには、花農家にイモ作れなどと命令だけして、増産計画を出さないと罰金を取るという。発想がメチャクチャ。

 米国が食料供給を独占するという、戦後の占領政策を日本の財界もうまく利用して、農業を犠牲にして自動車産業で利益を上げるという構造をつくってきた。FTA(自由貿易協定)を一つ締結すると、自動車産業は3兆円もうけて農家はその分赤字幅が拡大してきたという試算もある。その構造を変えることがないから、輸入農産物がますます増えて農家の所得は減る一方だ。

 基本法改定案の関連法案も議論されているが、ヨーロッパや米国でもやっているような、農家への赤字補填(ほてん)の仕組みこそ必要。たとえば、田んぼ10アール(1000平方メートル)ごとに3万円の支給は、総額1・3兆円あればできる。コメ農家の赤字補填は3500億円、酪農家の赤字補填は750億円でできる。有事に備えて500万トンの備蓄をすることも1兆円あればできます。現在の農水予算と合わせても5兆円あれば、これら全てができることになる。軍事に43兆円も使うなら、命を守り育む農業にこそお金を使うべき。

🔶―政治のあり方が問われている。

 「今だけ金だけ自分だけ」―今の政治は、自分たちと利害関係にある一部の企業の利益になるような政策ばかりをしている。これを根本的に変えることが必要。

 真に国民の利益を考える政治家を選ぶとともに、一人ひとりが輸入に頼るのではなく、地場産を買い支えるなど「ローカル自給圏」を形成していくことが必要。学校給食の買い取り制度などで、自治体がそれをサポートすることもできる。そうしたコミュニティー自治体が協力して取り組んで、そのうねりで国政も変えていけるような流れを期待したい。

 すずき・のぶひろ 1958年生まれ。農林水産省勤務、九州大学教授などを経て、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授。『世界で最初に飢えるのは日本』『農業消滅』『食の戦争―米国の罠に落ちる日本』など著書多数

 

【視点】

  日本の食料自給率は38%、フランス120%、米国130%、オーストラリア280%などに比べ極端に少ない。小麦、トウモロコシ、大豆なので穀物、肉類や乳製品の多くを輸入に頼っている。輸入国で飢饉や紛争があった場合、また日本と輸入国間でトラブルが発生した場合、日本はパニックに陥る。

 政府は、工業製品の輸出に力を入れ、日本の食料自給率向上の政策をとってこなかったことに大きな原因がある。もっと、農業を多面的に補助し、受給率を向上させる政策をするべきである。